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「白雲悠悠」檀一雄

 壇一雄の小説を読むと、胸が大きく開かれ、夏雲のようなちからが、むくむくと湧いてくる。
萎えしぼみがちなこころを、この広い世界にはばたかせる効果は、充分にあるのだ。「白雲悠悠」などは、題からしてそうなのだ。この作家の「太宰と安吾」を一読すれば、氏がこの破滅型の両人を、つよく敬愛し、ふかく共鳴したことには、胸が熱くなるほどである。なによりも、あふれるほどの友情が全篇を貫いていることがわかるだろう。
 かって、氏の力作「火宅の人」を読んだことがある。破天荒な人生模様が、読者を躍動させ、たじろがせ、面白がらせるにちがいない。
 本妻がいながら、別に、関係を深めてしまった女性ができてしまったことを、隠し立てなく、本妻に告白する主人公の、股裂きの刑を自らの運命のように、引き受けようとして奮闘するすがたは、男であることの「恍惚と不安、ふたつ我にあり」の太宰治を髣髴とさせ、「人間だから堕ちるのだ」と喝破して、狭隘なる人生に風穴を開けた坂口安吾の生きざまを甦らせずにはおかない。
 主人公の息子が、警察に補導されるとすっ飛んで警察署に行き、「お父さんはいつでもおまえの身方だよ。たとえ、人を殺しをしてしまったとしても、お父さんがおまえを見放すことはない」というようなことを言う父を持った息子は、なんと幸せなんだろうと、胸が灼かれるのである。
 この作家が最後の人生の放浪をしたポルトガルへ、私も20世紀が終わる年だかに、パリから飛行機を乗り継ぎ、旅をしたことがある。
 ああ、夕陽に染まるリスボン、ローマのように七つの丘をもつリスボンよ・・・・。

 過去の歴史のいっとき、大航海時代の覇者であったポルトガルと日本の縁は浅からぬものがあったはずだが、ヨーロッパの最西端のロカ岬に立ち、また、新年の朝早くに海岸のベンチに座り、容赦のない荒波が寄せる大西洋の海を眺め、一国の運命もまた、歴史の無常の波間に漂うことを、感じざるえないのであった。
  突然、私の胸にボードレールの「巴里の憂鬱」(三好達治訳)の詩句が甦った。

お前は誰が一番好きか? 言ってみ給え、謎なる男よ、お前の父か、お前の母か、妹か、弟か?
-私には父も母も妹も弟もいない。
友人たちか?
-今君の口にした言葉は、私には今日の日まで意味の解らない代ものだよ。
お前の祖国か?
-どういう緯度の下にそれが位置しているかをさえ、私は知っていない。
美人か?
-そいつが不死の女神なら、欣んで愛しもしようが。
金か?
-私はそれが大嫌い、諸君が神さまを嫌うようにさ。
えへっ! じゃ、お前は何が好きなんだ、唐変木の異人さん?
-私は雲が好きなんだ、・・・・あそこを、・・・・ああして飛んでゆく雲、・・・・あの素敵滅法界な雲が好きなんだよ!
                           
 白雲悠悠、白雲悠悠、そうつぶやいて、日ごと、日ごとを、送りましょう!




      
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テーマ : エッセイ
ジャンル : 小説・文学

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仮に「異邦人」としておく。あられもない空想から、科学的「真実」まで、詩、小説、歴史、哲学、政治、経済、趣味等、この世の人事、出来事、万般に、興味を寄せる者の総称とします。

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