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裸婦を描き、パンを焼く

 先夜、エベレストの頂上をのぼり、360度のパノラマを、テレビで見ることができた。絶好の天気に恵まれたそうであるが、地球の屋根から見下ろす大パノラマの光景は素晴らしいものであった。重たい写真機を持って、よく身の毛のよだつ氷山のクレパスに細い梯子をかけ、酸素ボンベを吸いながら、8600メートル級のエベレストに挑戦したものである。
 二十代の頃、私も山岳部に入っていたことがある。朝、暗いうちから起き、歩きはじめて谷川を渡り、山から山の尾根やら笹藪やら瓦礫の道を、30キロ以上の重荷を背負い、意識も朦朧とよく歩きつづけることができたものであった。この2,3千メートル級の夏山の縦走から下山して東京に戻ると、一週間も経たないうちに、今度は飛行機に乗りつぎグァム島、ヤップ島を経て、パラオ群島へスキューバダイビングをやりに行った。1975年の夏のことである。40メートルの海の底がのぞける透明度のあるパラオでは、最大深度57メートルも潜ったが、危なく命を落とすところであった。近くのペリリュー島へも渡ったが、赤錆びた戦車やら深く掘られた塹壕に溜まった水面を亜熱帯の太陽がギラギラと照り、波音が淋しく遠くに聞こえるいがい、なにもない島であった。ここで数千の日本軍が玉砕したと想像するだけで、目眩を覚えてただみんなで黙祷をしてみたが、虚しいだけであった。
 その年の正月に最初の詩集を自費出版した私には帰国したあとは、もうやるべきことはなにもなかった。ちょうどいい按配に母が見せてくれた写真の女性と上野文化会館前で会い、それから2回目のデートでプロポーズをして(この速攻撃にやられてしまったとは後年の家人の言いがかりである)、その年の11月末に明治記念会館で式をあげた。1975年(昭和50)は春にヴェトナム戦争が終結し、アメリカへ天皇両陛下の戦後初めの訪問があり、結婚式の当日から始まった国鉄最後のストライキは一週間も続き、時代の節目となった年だと思われる。私も28歳となり年貢の納め時と判断したのだ。
 なにやら分からぬが、私は寸暇を惜しんで勉強(?)し、そして、二十歳の頃から自分の肉体の鍛錬に少なからずの投資をしてきたことだけはたしかであった。ただひたすら内心の声に促されてその日その日を送った。本を離さず、映画やら美術館へ通い、それが自分の生きる道とひばりの歌でもあるまいに、ただ気が多いだけのロマンティケルに過ぎなかったのかも知れない。私のようなものでも、なんとか生きられたということでは、私に運のようなものがあったのか、ただ百姓の意地のようなものであったのか。なんとも分からない。それで還暦などを迎えようなどとは、思いもしなかったのだ。愛する者を奪う死は哀しいという以上に、私はいつも憤怒のようなものに見舞われるのであった。いや私に人を愛することなどができるこころなどというものがあるのか覚束ないのだ。ただ残された時間だけは、神妙に生きていきたいと今日思っても明日は知れず、毎日、子供が遊ぶように時が過ぎ、ただやりたいことをやっていればそれで幸福を感じる、あさはかな人間にすぎないのであろう。
 絵画はよく見てきたが、実にひさしぶりに裸婦を描く機会があった。若い頃、2歳年上の女性に誘われて目黒の美術研究所で、裸婦を見ているうちに、内的な衝迫に動かされて雑誌の裏表紙にボールペンで描きなぐったのが最初であった。その女性ともう一人の夢中の恋の虜となった同年齢の女性の二人から、25歳の私の誕生祝いに「ゴヤ」の画集を贈られた頃が、私の青春の盛りであったようだ。自分を幾らかでも好感を懐いてくれる女友達を持つというのは、男の友人以上に人生を愉しくしてくれるのかも知れない。それから30年以上になるがときおり思いもかけず、私の夢に現れて昔の変わらない微笑で私を幸福にさせてくれた時があったのだ。またいつか夢に二人が現れてくれるだろうか。あの昔のままの姿でいいのだ。私の耳の奥に二人の声はまだ聞こえているのだから・・・・。あのポール・ヴァレリー先生はいったい幾人の愛人や女友達をもち、知的かつ痴的に交友を重ねていたことを思えば、すこしはそんな幻想を抱きたくなるのだ。やはり、コレージュ・デュ・フランセなるところで「女性の知性について」などの講演をしなければ、夢のまた夢なのであろうか。

   the nuud1 nuuudo.jpg

   裸婦3

 またライ麦パンとピザパンを焼いた(レシピ省略)。そして、遠く、船はいく・・・・。


    ライ麦パン
   
私のピザパン




   
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Author:masuryuu
仮に「異邦人」としておく。あられもない空想から、科学的「真実」まで、詩、小説、歴史、哲学、政治、経済、趣味等、この世の人事、出来事、万般に、興味を寄せる者の総称とします。

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