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映画「幕末太陽伝」

 日活映画創立100周年を記念して、再上映となった川島雄三監督の「幕末太陽伝」は稀代な名作映画だ。
むかし、この映画をなんの気もなく観たことがあったが、40年経たいまでもフランキー堺の演ずる(佐平次)が、品川の宿場町から去っていくラストシーンが目に焼き付いて離れないのだ。
「生きるんでェー!」という佐平治の科白と、元気だがどこか淋しい後ろ姿・・・・。
 労咳で余命いくばくもない無一文の男が、同類の男たちを連れ品川の旅籠・相模屋へ登楼し、飲む喰い踊ると遊び呆けた末に、一人相模屋に居残った佐平次が、口八丁手八丁の気転を利かせ、こまめに働き、喧嘩を仲裁し、男女の仲を取り持ち、相模屋の男・女衆の誰からも頼りにされたあげく、貯めた金子を懐に粋に羽織を着て振り分け荷物を肩に、幕末の東海道にすがたを消していく。飽きさせない場面転回の素早さ、北の吉原と並び称された宿場町・品川の岡場所に、文久二年、勤王の志士たちも絡み、日本の転換期、武士も町人もなく、欲得づくでごったがえして、はじきれるそうに生きる庶民の人間模様を面白おかしく活写した、夭折の天才監督、屈指の時代劇である。
 高杉晋作に石原裕次郎、久坂玄瑞に小林旭、その他二谷英明が出演し、古典落語「品川心中」下敷きにした男役に小沢昭一、女優人には南田洋子、左幸子、芦川いづみという実力派のキャストがそろい、フランキー堺の演技は粋で歯切れがよくって、これぞエンターテイメントの映画という代物だ。落語は「品川心中」のほか、「三枚起請」を折り込んで、助監督に今村昇平がいる。
 職場が品川にあったころ、私はこの映画の背景となった神社の階段をあがり、人工に造ったコンクリートの富士山に登って、むかし、海岸であった品川一帯を一望したことがあった。奥の路地の壁に「板垣退助死すとも、自由は死なず」とかいう有名なことばが刻んだ石碑があった。高杉等が襲撃した外国人慰留地の愛宕山はすぐ近くにあったのである。 
 今年の3.11の災害と原発事故以来、どうも元気のない日本人は、こうした映画をみて、すこしでも息抜きをしたらどうだろうか。
 たしかに、世界最初の被爆国日本が原発事故に寄せる思いは単純なものではないだろう。二度の被爆国(第五福竜丸事件を入れると三度)の日本が、原子爆弾の悲劇を平和利用にと、原子をどこまでコントロールできるか分からない代物を、危険と効用の二律背反を背負って、今までなんとか来たのである。それがよりによって世界同時不況のこのときに、「想定外」の地震と津波により、メルトダウンして放射線を、海と陸にばらまいたのだ。
 今後のエネルギー政策、放射能汚染の除去、被害地の復興、東電と国家の損害賠償、今後の防災対策、財政問題と社会保障、それに安全保障問題が絡み、政府の悪戦苦闘は長きに亘ってつづくことであろう。
 私は6,7年まえに書いたポルトガルを舞台にした小説らしきものに、日本と大航海時代の覇者ポルトガルとの機縁を織り込み、リスボンの大震災からポルトガルという国家が衰退していくことに、日本という国を重ねてみていたのを思い出して複雑な気分に捉えられる。それだけではない。ポルトガルの聖地となった世界の破滅の予言のエピソードもまじえて、一編のエレジーを書いたのだ。GDPで中国に抜かれ世界3位に転落し、右肩上がりの日本が正常な体型に戻り「ほット」したという声も分からなくはないが、様々な問題を抱えながら政治空白がつづく日本への憂慮がないはずはないだろう。
 一頃、海に潜っていたせいもあり、海の環境汚染は身近に感じてきたことでもあった。オニヒトデによる珊瑚礁の墓場は、豊かな海を一変させる光景であり、海のなかの魚群は年を追う事に淋しいものになりつつあることは、誰の目にも明かなことであった。
 いまから30年ほどまえ、私は「日本三文オペラ」を書いた開高健の愛読者であったが、彼がブラジル・アマゾンの森林を、また、北海道釧路の湿原が今後どうなるかを心配していたことを思い出す。世界を股にかけた豪快な釣り姿を見せていた作家が、その裏で繊細な神経をそよがせ、戦後の焼け跡派の眼で高度経済成長を眺めていたことは明らかだった。彼も淋しい大阪の一人の佐平治であったのだ。労咳で咳き込みながら、
 ー生きるんでェー!
 とから元気の粋な後ろ姿で、銀幕の向こうへ走しり去っていった佐平治は、また、現在の日本人一人ひとりの姿なのだと思わずにはいられない。
 話題がぶれてしまったが、もうこの辺で終わりにしようか。



 
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Author:masuryuu
仮に「異邦人」としておく。あられもない空想から、科学的「真実」まで、詩、小説、歴史、哲学、政治、経済、趣味等、この世の人事、出来事、万般に、興味を寄せる者の総称とします。

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