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ピー子の独り言

 あたし、なんだか、このごろ、太ったよう。これって、食欲の秋なんだ。すんごく、お腹がすいて、食べてばかりいる。それで、木の小さなハシゴの上は、もう、白い珊瑚礁でいっぱい。喉も渇くので、お水も飲むし、青野菜なんか、とても、美味しくいただきます。もう、茎のほうから、食べてしまうので、葉っぱは籠の下に、垂れて、落っこちます。雨に濡れた落ち葉みたいに、籠の底にそれをみるのが、なんだかつらくなります。あたしは、もう、若くはありませんので・・・。
 年とるのって、ほんとーに、いやだけど、インコの一生をまっとうします。時々、歌でも奏でて。
 その代わりに、あたしは毎日、住んでいる籠のお掃除をしていただいています。お食事もいただいて、お世話になっています。
 この家のご主人が、籠のまえに座るときに、どっこいしょ、と言うのを聞くと、ああ、この家の主人も、たいへんなんだなーと、一度、おもわず、その、「どっこいしょ」を、まねして鳴いてあげたら、主人さまのよろびようが、面白く泣けてきてしまいました。それから、籠のまえにくるたびに、「よいさ」とか、「どっこいしょ」、なんかをわざとらしく、口から出して、それを、また、あたしがまねてあげますと、お!まねした!なんておおげさな声をあげて、喜んでくださいます。ちょっと滑稽なんですけど、ご主人もきっと、さびしい人にちがいないと、これって、憐憫の情とか、そういうのかしら、そんなへんなきもちになることがあります。それで、あたしの汚したハシゴを、棒で綺麗にしてくれながら、汚ねいなー、なんか溜息をつくんです。鼻をつまんだようなその顔が、あたしのつぶらな瞳に映って、この禿げかかったご主人を、つくづく眺めてしまいます。
 あたしの観察では、朝、六時前頃にひとり家を出ていきます。奥様はまだ蒲団の中にいる時刻でしょうか。なにか太い木の棒を、右手に下げ、早足で外を歩くご主人の足音が遠ざかるのが聞こえます。隅田川にあるテラスを散歩して、それが終わると、素振りとかいうものをやっているようです。
 帰ってくると、定番の食事をとり、テレビでニュースを見終わると、半ズボンにはきかえ、まなじりをけっした、懸命な表情で、お風呂掃除をします。それから、そうとうにお疲れのようになって、「よいしょ」と言いながら、あたし籠の掃除などのお世話をしてくれるんです。でも、ひとつあたしが嫌いなのは、そのとき、鼠の顔によく似た、大きな筆をお掃除の道具に使われることです。あたしが、キャ!、キャ!と、厭がるのを知りながら、それで籠の隅にくっついた羽根毛を掃いているようです。あたしが嫌というのをやるのは、ちょっと、セクハラというんでしょうか。あたしはセキセイインコなので、それとも「セキハラ」と言うのでしょうか。そして、ご主人はやはりお年のせいか、ボケがはじまったらしく、開けた扉をそのままにして、座を立たれてしまいます。最近、ちかくの野良猫やら、天井裏をかけまわる鼠公やらが出没し、あたしを怖がらせているので、ヒアヒアとしているんです。どうか、冷蔵庫の扉ではありませんが、ちゃんと締めて行っていただきたいものです。
 ご主人はこのごろ、過去を思いだしたように、テレビのN響アワーで音楽などを、聞いているようです。音楽はあたしも好きなほうですから、自然に喉から声がつぎつぎと、出てまいります。すると、主人はあたしを、うるさそうに睨んで、
「ピー子、お願い、静かにして!」と叱責されますが、あたしだって、インコの鳥です。時には、音楽を自分の声で、奏でてやりたくなるのです。
 先夜のことでしたが、やはり、音楽が鳴り出すと、あたしのからだがその喜びに反応して、歌い出しました。そして、いつものように、あたしは叱られました。
 それで、そのご主人のことばを、そのままま、歌ってあげました。
ーピーコ、オネガイ、スズカニシーテ!
 すると、こちらを、ちらっと、見て、それから、大声で笑いました。
 お!まねした、まねした、と、おおはしゃぎでした。あたしだって、もう、老インコですが、このくらいな奉仕の精神なら、まだ、持ち合わせているのです。
 それに、まだあるのです。ご主人は、なんでも眠れないらしく、琥珀の液体に、氷りを浮かして、一杯やるのが、習慣なようです。
 あたしだって、たまには、ノンデミタイ、ヨッテミタイ、ノデス・・・・・。
 オサケ、クダサイ。
 あたしは、深夜に、一声、鳴きました。
 静かな夜のことでした。
             
 

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Author:masuryuu
仮に「異邦人」としておく。あられもない空想から、科学的「真実」まで、詩、小説、歴史、哲学、政治、経済、趣味等、この世の人事、出来事、万般に、興味を寄せる者の総称とします。

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