詩2篇
ビアク島残照
ビアク
それはインドネシア
パプアニューギニア西側
イリアンジャヤの沖の浮かぶ
小さな島
巨大で辺鄙な空港から
朝焼けの空につづく
一筋の径を走り
静かに光る星の下
暗い村となだらなか丘を越えて
眠る子どもの夢のように
どこまでも広がる
夜明けの空の彼方に ある
それは赤いブーゲンビリアと
椰子の葉陰に憩う
緑の南の島
やさしい海風は
夕暮れのテラスを吹きぬける
食卓に固いパンと簡素な料理
使用人は闇の衣をまとい
客人の背後に佇んでいる
いつ果てるともない食事を
ああ その犬のような従順さ
ホテルのまえにひろがる
遠浅のリーフは
ゆったりと波に揺られ
珊瑚に戯れる魚たち
おお その沈黙の饗宴
突堤では
肋骨を透かした犬が徘徊し
日がな一日 島人は
藍色の海へ
釣り糸を投げては引く
ときに ズボンを穿いたまま
永遠という鏡の淵へ飛び込むため
そのときぼくたちは潜る
金色の水の光りを浴び
愛に渇いた恋人のように
失われた海をもとめて
遠い沖にしたたる星 天の穴へ
そのときぼくたちは踊る
レゲェに酔いしれ
バリハイを飲み干し
腰にホカテをつけた 戦士のように
そのとき 夜の女王
銀の月は 闇に白刃を光らせる
ビアク
あれは真っ裸の少年 スタンリーの
無垢な微笑に閃く白い歯
小さな黒いちんぽの
幸福な島
(1999年9月)
※太平洋戦争時ビアク島は「絶対国防圏」にあったが、昭和19年5月27日、大部隊の上陸により、日本の最初の要衝はここに破れた。
カシニョールの女たち
鍔広の帽子の陰に 青い海がのぞく
おお 清楚な衣装につつまれた妖精の花々
切れ長のさ緑の眸が 見つめるものは
あなたではもちろんない
つかのま消えゆく夢のような明るい風が
つぶらな含羞の瞳に はや気怠い午前の翳 を沈ませ
風景の装飾 痩身の女は
いま光のトルソー 水の五線譜
透明で無性のセクスは
甘美な植物の睡りをまどろんでいる
ジャン・ピエール・カシニョールの庭の
メランコリーの窓辺にたたずむ
それは遠い「美」の面影にすぎない
ビアク
それはインドネシア
パプアニューギニア西側
イリアンジャヤの沖の浮かぶ
小さな島
巨大で辺鄙な空港から
朝焼けの空につづく
一筋の径を走り
静かに光る星の下
暗い村となだらなか丘を越えて
眠る子どもの夢のように
どこまでも広がる
夜明けの空の彼方に ある
それは赤いブーゲンビリアと
椰子の葉陰に憩う
緑の南の島
やさしい海風は
夕暮れのテラスを吹きぬける
食卓に固いパンと簡素な料理
使用人は闇の衣をまとい
客人の背後に佇んでいる
いつ果てるともない食事を
ああ その犬のような従順さ
ホテルのまえにひろがる
遠浅のリーフは
ゆったりと波に揺られ
珊瑚に戯れる魚たち
おお その沈黙の饗宴
突堤では
肋骨を透かした犬が徘徊し
日がな一日 島人は
藍色の海へ
釣り糸を投げては引く
ときに ズボンを穿いたまま
永遠という鏡の淵へ飛び込むため
そのときぼくたちは潜る
金色の水の光りを浴び
愛に渇いた恋人のように
失われた海をもとめて
遠い沖にしたたる星 天の穴へ
そのときぼくたちは踊る
レゲェに酔いしれ
バリハイを飲み干し
腰にホカテをつけた 戦士のように
そのとき 夜の女王
銀の月は 闇に白刃を光らせる
ビアク
あれは真っ裸の少年 スタンリーの
無垢な微笑に閃く白い歯
小さな黒いちんぽの
幸福な島
(1999年9月)
※太平洋戦争時ビアク島は「絶対国防圏」にあったが、昭和19年5月27日、大部隊の上陸により、日本の最初の要衝はここに破れた。
カシニョールの女たち
鍔広の帽子の陰に 青い海がのぞく
おお 清楚な衣装につつまれた妖精の花々
切れ長のさ緑の眸が 見つめるものは
あなたではもちろんない
つかのま消えゆく夢のような明るい風が
つぶらな含羞の瞳に はや気怠い午前の翳 を沈ませ
風景の装飾 痩身の女は
いま光のトルソー 水の五線譜
透明で無性のセクスは
甘美な植物の睡りをまどろんでいる
ジャン・ピエール・カシニョールの庭の
メランコリーの窓辺にたたずむ
それは遠い「美」の面影にすぎない
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