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人情紙風船(一場)

ー先夜、映画「人情紙風船」をやってましたなー。
ーそれが、どないしたの?
ー監督の中島貞夫っていうのが、どれほど凄い監督さんか、あんた知らへんのかい?
ーそんなこと知ってたかて、どないするっていうねん。わしら仕事なくてな、明日の心配であたま一杯でおまっさかいなあ。
ーそれだ!そんな世の中をなあ。あの映画はよう上手く撮っているのや、もっとも封建時代の武士の薄幸な シーンでおますがなー。まず、落ちぶれた長屋住まいのお武家さんが、仕官するところを捜して、生前の父の友人に、お願いですってと言うてなー、どしゃぶりの雨をずぶ濡れになりながら、頭低うして幾度も頼みまんねんが、父にえろう世話になったこの偉いお武家さんなですがな、一向に手を貸してくれしまへんのや。貧乏長屋で紙風船をつくりながら、じっと辛抱している御上さんも、やはり武士の妻ですねんなあ、おなじ長屋に男気があって、腕っ節のたつ男がいて、そのお陰で、大家さんも巻き込んで長屋じゅうが加勢してうまいこといきましてな、お陰で金が入って、これで長屋のみんなが酒盛りしてなあ、そこでお武家さんも一杯ご相伴に預かり、ほろ酔い加減で帰り、御上さんを思って「仕官の件はうまくいっておる。心配せんでよい」てな嘘をつき、背中を見せて、横たわって寝ているご主人をでっせ、この武士の御上さんは、とうとう見るに見かねてなあ、じぶんの守り刀をとりだして、ご主人を殺し無理心中をは かってしまうねん。ラストシーンになあ、長屋の溝に風にふかれた、紙風船が転がっていくところで、映 画は終わるねんやわ。胸におなじ人情紙風船の風がすーっと吹き込んでくるような、なんか、じれっていような、そんな気になってよ。むかしの武士っていうのは、なんてー、かた苦しいしがらみの、ご体裁ばかりの世の中を、生きなくちゃーならねんだってさあ、わたしゃ、じーんと胸に沁みて、なんだかいやになるほどの名作ですがな。この監督さんは戦争で28歳で亡くなっているんだけどなあ・・・・。そうだ、「幕末太陽伝」というフランキー堺主演の映画も、この監督さんだったとちがいおまっか。あれも、面白いおますが、なにか心細くなるような幕切れでしたなあー。
ーチェ!そんな映画のどこがいいんだい。おれは死んでも、そんな淋しい、暗ーい映画は見たくもないやい。現に、世の中は映画どころか、そのへんにごろごろとよ、そんな事件はあるんだぜ、そんなご時世によくおまさんも、やれ凄い名作だなんて感心してられるというもんだい、いやなら見なけりゃいってもんさ、おれは呆れてものが言えねいやい。馬鹿だねー、おまえも・・・・。
(舞台の袖から、小雪まじりの風が吹いてくる。二人は寒そうに一旦は、寄り添うような様子を見せるが、なにかに脅えるように、辺りを見廻している。しばらくお互いにぼんやりと相手を眺めているが、そのうちに相手の顔を、じーと睨むように見つめ合う。また、雪がはげしく降り出すと、静かに幕が降りていく)




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仮に「異邦人」としておく。あられもない空想から、科学的「真実」まで、詩、小説、歴史、哲学、政治、経済、趣味等、この世の人事、出来事、万般に、興味を寄せる者の総称とします。

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