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落穂詩数編

        春のうたげ
      
 

毎日のニュースで知らされる
強盗 放火 児童虐待 数も知れない自動車事故
拉致 監禁 暴行 詐欺 得体の知れぬ連続殺人
汚職 収賄 年金記録の改ざんなど
満天の星 いやいやそれは荒んだ悪の世の暗いネオン
腐臭を放つ河の溝から洩れる苦悶の吐息だ。  

未遂者を合わせれば自殺者の数は
年間平均五万人は下るまい
だれもが「人身事故」のアナウンスを平気で聞く
その貧しい無表情の瞳はどんぐりのように固い
マスコミという歪んだ鏡に映った
日本という国のこれが平和なお姿なのだ。

嘆くまい ましては憤どおるまいぞ
飯もろくに食えない若者たちはその日の塒をもとめ
ダンボールを探し 横たわる居場所を見つけるだけ
誰のこころもこの島のかたちに折れ曲がり
錆びついた釘のように 誰も住まないマンションの
屋上で風雨に晒されるだけのことだ。
    
目を点のようにして暮らすのは
ダルマさんか マンガの絵のように おかしいだけ
すでに老いたる眸は
近くも遠くも霞むばかり
わずかな時間と年金だけが
われらに残された
淋しい希望ではないはずだが。

肩肘をはって生きていくのは
ただ疲れるばかり それに肩が凝るだけだ  
太陽の黒点にも異変があるという
地球の余命ももうきっと幾ばくもないにちがいない  
われらの人生が静かにたそがれていく
その日々の音色に耳を澄まし 生きていくだけでいい。

穏やかな春の日
美しい花々は 
一陣の風に舞い散る
みじかい いのちの華やぎをみせて
そして ぬかるんだ泥のうえに
とけていく 淡雪さながらに。
 
太陽は ゆっくりと沈んでいく
われらのせせらぎが還る 蒼い海原よ
汀に砕ける白い波濤
われらが心臓の旋律にも似た
宇宙の果てからくる 囁きにも似た響きよ。

永遠の彼方にさすらう少年よ 少女よ
沈黙する神々たちに伝えてください
われらは 健やかに生きてあり
ここに こうしているのだということを。

       (平成二十一年三月二十日)



       声


目をふさぎ ねむったように
母よ あなたは そんなふうに
あの世へと 旅立たれるのでしょうか

たとえ 目がひらき あなたの
口がうごいたとして 
いったいどんなことばを
わたしたちに 
かわせることができたでしょう

九十二年のあなたの一生
母よ あなたはもう
じゅうぶんに 生きたのですから 
この世の わずらわしい 
憂き世のぐちは きれいに忘れ
そのまま静かに 目をとじて
安らかに ねむりについてください

いずれ わたしたちも あなたのように
この世を生きたあかつき
あなたのそばに まいるでしょうから

そこに あなたはいて
共に暮らしたわたしたちの一生が
遠くから こだまのように
聞こえてくるのでしょうか

母よ そのとき 
わたしは 聞いていたいのです
懐かしい あなたの声を
遠くから 私の名をよぶ 
母の その声を
音楽のように
いつまでも
いつまでも

                      (二〇〇五年二月二十日)






  春の寒い夜に


ほんのりと暖かい母の手
青黒い血管がうきでた
皺だらけの手
握ると軽く握りかえした
スプーンで姉が口に入れた
おかゆにまぜた薬を
吐き出し 歯を噛みしめる顔は
もう生きていく意志がないのだろうか
車椅子を押されながら
ありがとう ありがとうと
感謝のことばを 繰り返す母
それはまるで
さようなら さようならと
つぶやく歌のようだ
ほら、きれいな花がみえるでしょう
だが母はなにをみるでもなく
なにもしてやれなくて
ごめんなさい ごめんなさいと
五人も産み育てた母のつぶやき
私たちもみんな 歳をとり
もうすでに初老のさかい
感謝をするのは 私たちなのに
謝ることなど なにもないのに
母のそのことばにおどろき 
口ごもって
ただ 長いあいだありがとう
ありがとう おかげさまで
普通に生きてくることができましたと 
ほの温かい母の頭を撫でるだけ
ちかづいてくるものがみえるように
力なく あきらめたような顔は
私たちのみえないものを
いちづに みつめているようだ
春の寒い夜ですね お母さん
すこしづつ元気になって
またみんなで歌などうたいましょう



                       (平成十七年五月六日)





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Author:masuryuu
仮に「異邦人」としておく。あられもない空想から、科学的「真実」まで、詩、小説、歴史、哲学、政治、経済、趣味等、この世の人事、出来事、万般に、興味を寄せる者の総称とします。

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