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詩「アナベル・リー」エドガワ・アラン・ポー

 映画ほど面白いものはない。この世に狂気の沙汰と呼べるものがあるなら、その言葉の文字通りの場面を眼の前に踊り出させ、それを存分に堪能させてくれる娯楽だからだ。
 先夜、テレビで偶然にみた「博士の異常な愛情」なんていうものも、核戦争を想定してこれほど黒い笑いを誘ったものはない。
  監督のスタンリー・キューブリックは、「時計仕掛けのオレンジ」のベートーベン音楽の狂気からはじまって、スティーブン・キング原作の「シャイニング」は、ホラー映画の最高傑作と言われている。
 コロラドの雪深い山中、冬期は閉鎖されているリゾート・ホテルを舞台に、その管理にやって来た、ある親子三人に取り憑く怨念と狂気を描くいているのだ。主演はあのジャック・ニコルソン。
 スリルとサスペンスが好きな家人に、この「シャイニング」を見せてあげたら、どんな感想を洩らすだろうか。健康な家人の想像力には、スタンリー・キューブリックはすこし強烈すぎるかもしれない。
 「健全なる愛情」から私は時折、家人を誘って映画館へ行く。先日は場末の錦糸町(失礼!)へ、「ポー、最後の五日間」を見に行った。R15の映画だった。
 昼の部は予約で満杯のため、食事をしながら夜の部をみることになった。「ポー」と言ってもボーとして分からない人もいるかも知れない。アメリカの小説家としては不遇だった、あのエドガワー・アラン・ポーのことだ。
 「モルグ街の殺人事件」「アッシャー家の崩壊」「ベレニス」「群衆の人」「ウィリアム・ウィルソン」「アーサー・ゴードン・ピムの冒険「ハンス・プファルの無類の冒険」「メルシュトレムに呑まれて」「楕円形の肖像」「赤死病の仮面」「エレオノーラ」「黒猫」「黄金虫」「陥穽と振子」「不条理の天使」「天の邪鬼」「盗まれた手紙」「ちんば蛙」「スフィンクス」。評論に至っては、「室内装飾の哲学」「構成の原理」「詩の原理」「詐欺ー精密化学としての考察」、そして、あの壮大なる宇宙論「ユリイカ」、おっと「覚書(マルジナリア)」を忘れてはいけない。
 なんにしろ、このポーがいなければ、フランスに詩人のボードレールからはじまってマラルメに至るフランス象徴主義は存在しなかかったかも知れないのだ。物語は最後の一行のために書かれなければいけないと喝破したのはこの「断末魔の知性」と三島由紀夫に言わしめた詩人にして探偵小説の創設者であり一流の批評家だったポーなのだからね。だがアメリカの作家はみなそういう傾向があるけれど、アルコール中毒であった。
 ポーは一八四八年十月三日、ボルチィモアの酒場のまえで意識を失って倒れていた。それから四日後の十月七日朝息をひきとった。享年40歳、この最後の五日間の詳細は不明。
 十月九日、ニュヨーク・トリビューンに、詩「アナベル・リイ」が掲載されたんだ。多感な高一の時に、ポーのあの装飾的な英語を読み、この詩を暗記していたことがあった。すこしこの詩の冒頭を原詩で載せて、その後に日本語の訳を紹介してみよう。

ANNABEL LEE

It was many a year ago,
in a kigdom by the sea,
That a maiden there lived whom you may know
By the name of ANNABEL LEE;―
And this maiden she lived with no other thout
Than to love and be loved by me.

She was a child and I was a child,
in this kigdom by the sea,
But we loved with a love that was more than love―
I and my ANNABEL LEE―
With a love that winged seraphs of Heaven
  Coveted her and me.

昔むかしのことでした、
海のほとりの王国に、
ひとりの乙女が住んでいました
アナベル・リーのいうなつかしい名の―
乙女の思いはただひとつ
ぼくと愛し愛されることでした。

彼女は子どもでぼくも子ども、
海のほとりのこの王国で、
けれども愛よりも大きな愛で愛し合いました―
ぼくとぼくのアナベル・リーは―
天国の翼をつけた天使たちが
彼女とぼくから欲しがり求めた愛をもって。

どうもこれ以上の引用は、私にはとても無理だ。この至高にして純一な愛は、若き日のポーの少女のような妻(Virginia)をうたったもので、俗悪なるこの世とは隔絶した愛の至上の王国へ、最愛の妻をその祭壇に葬ろうとする詩人ポーの魂がその奥底で響いているからだ。




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Author:masuryuu
仮に「異邦人」としておく。あられもない空想から、科学的「真実」まで、詩、小説、歴史、哲学、政治、経済、趣味等、この世の人事、出来事、万般に、興味を寄せる者の総称とします。

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