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ジョディ・フォスター

 あるところでロベルト・デニーロ主演の映画「タクシードライバー」の話題から、話しが盛り上がった。この映画はデニーロの出世作となり、70年代初頭の若者のこころを捕らえた映画で有名だ。最近では、BSで「容疑者」という映画で彼の演技を見たが、年をとったとはいえ彼でなければ出せない持ち味の映画となっていた。「タクシードライバー」には、13歳だったジョディ・フォスターが子役を演じていた。このジョディ・フォスターから話しが広がり、彼女が出た映画「フライト・プラン」を熱心に紹介され、早速、通販の中古のCDを買い込んだ。
 サスペンス映画はストーリーの展開が早く、筋がもつれるのが相場だが、この映画はそうではない。場面がほとんど飛行機内であるためだが、犯人を推察するジョディ・フォスター役の母親の鋭い洞察力にこの映画の優れた味わいがあると思われる。夫が突然家のヴェランダから転落して亡くなり、その亡骸を入れた棺と飛行機の設計技師として機内を熟知しているジョディ・フォスター扮するヒロインが、飛行機会社からハイジャック紛いの手口で多額の金を奪うためのターゲットにされる。ここに犯人たちの当初からの計画(プラン)であったというのが、このアクションサスペンス映画の味噌なのだ。6歳の娘を連れて搭乗したはずの機内からこの娘が行方不明となる。父親の突然の事故死のショックで親子とも悲しみに沈み、ナーバスになっている母子像がこの映画では、最初から提示されているのが、この映画制作のプランでもあるというところに、心憎い伏線が張られている。機内の全客員の生命の総責任者である機長は、搭乗記録を確認させるが娘の情報はなく、乗務員もその娘の搭乗の記憶は曖昧であり、子供が行きそうな機内のほとんどの場所を捜索させるが、娘は杳として見つからない。常軌を逸したヒロインが機内の構造に余りに通暁していることで、機長と安全保安員は逆にこの母に疑いの目を向ける。この辺りが2001年の9.11の記憶がまだ生々しく残るアメリカのテロに対して神経質にならざる得ない事情を背景としたこの映画が、2004年に制作されていることと符号してくる。異常な心理状態とこの新型ジャンボ飛行機の設計者であるヒロインが、娘の行方不明を訴えるが、それを根拠のない妄想としかみない保安員の言動に、ヒロインがリアルで鋭い眼差しを注ぎ始めるのはこのあたりからだ。ヒロインは保安員の目を盗み、電気系統を操作して機内を混乱させながら必死に娘の居場所を突き止めようとする。ヒロインがはっきりと犯人の全計画を推理し始めるのは、保安員と一人の女性乗務員のちょっとした行動に不審の眼をむけてからだ。保安員とグルになった女性乗務員は、自分がヒロインによって見抜かれていることを悟りだした時、機内の全員の疑惑との戦いの勝負は、ヒロインの方へ傾きだすのだ。機長が多額の現金の振り込みを了解しそれが完了したことを確認したあたりから、犯行が成功した安堵からか、保安員は自分の正体をさらけ出し犯行計画の詳細を、ヒロインへしゃべり出すのだが、圧巻は飛行機が緊急着陸した後のことだ。誰よろも先に飛行場へ降ろされたタラップを降りていく保安員の背後から、ヒロインは保安員の名前を大きな声で叫ぶところだ。機内に残った二人の勝負がここで決着するからだ。ヒロインは油断した保安員の背後を、消化器のボンベで投打し、ポケットから機内を爆破するリモートコントロールの爆破装置を手中にする。犯人とヒロインとの機内での最後のアクションが展開され、機内後部の荷物室に眠らされている娘を見つけ出した母は、娘を安全圏へ移すと同時に、追跡してきた保安員のいる後部に仕掛けられた爆薬をリモートで爆破する。すでに飛行場に降り立ち、避難した搭乗員と乗客が見つめる飛行機の煙霧の中から、娘を抱いたヒロインが姿を現すところで映画は幕を閉じるのである。
 ジョディ・フォスターという女優は、「羊たちの沈黙」を見てから印象に残る女優となった。怜悧な子鹿のよう顔立ちだが、あたまの回転が素晴らしく、かつ胆力もある敏腕な分析医クラリスを演じて瞠目したのである。怪物のレスター博士も一目おかざる得ない女性だ。「フライト・プラン」でも同様で、密室のようなボーイングの新型飛行機のなかで行方不明となった6歳の自分の娘を捜す母親を演じ、その洞察力と素早い気転には舌を巻いてしまった。事実彼女は全米でも名門のイエール大学を卒業して、ロスでは「リセ」に通いフランス語にも長け、「バカロレア」の資格を得ているのだ。「タクシードライバー」のときは13歳で、可愛らしい12歳の娼婦を演じ、その魅力に撃たれた男にストーキングをされたらしいが、男は1981年にレーガン大統領を暗殺しそこねて逮捕されている。
 いったいジョディ・フォスターという女優の魅力はどこにあるのだろう。
 「タクシードライバー」の子役でアカデミー助演女優賞にノミネートされた彼女は、「告発の行方」でアカデミー主演女優賞を受賞、さらに「羊たちの沈黙」で2度目の主演女優賞を獲得して名実共にアメリカのトップ女優となっている。
 本名はAlicia Christian Foster。4人兄妹の末っ子として生まれ、父親は彼女が生まれる前に蒸発している。イエール大学では学業と舞台に専念した彼女は、「リトルマン・テイト」で念願の劇場初監督を達成、演出家としての才能も発揮した。94年には、製作も手掛けた「ネル」で、独自に生み出した言語“ネル語”を語り、アカデミー主演女優賞にノミネートされ、「羊たちの沈黙」のクラリスを“フェミニスト・ヒーロー”と名付けるなどフェミニストとしての活動も有名とのことである。98年7月と01年9月に男の子を出産(共に父親の名前は公表されていない)し、かねてより未公表ながら同性愛者とされていた女優で写真家のアレクサンドラ・ヘディソンと2014年4月に同性結婚をしているのだ。
 知性と個性溢れる、先端的な女性像を想像するしかないが、その人間性に魅力がなければ周囲から愛されるはずはないだろう。この人間性とはなにか内面から輝きだしているものがここには必要なのだ。それがアトラクティブとなりながら隙のない円やかな雰囲気を醸しているという、稀有な存在が“ジョディ・フォスター”という女優なのだろう。だが私は、彼女の魅力を生まれたときに既に父が蒸発している特異な境遇に見たいのである。「父」の不在が逆に彼女の生きていく障害にはならず、子供を得るにも「男」を必要としない新しいかたちの女達のタイプを彼女が積極的に選びだして、堂々と生きて創りだしたというところである。
 「親」と「子」の新しい家族関係と構造は、これからの文明における人間考察には不可欠な要因となる予感がしてならないのだ。英国作家のカズオイシグロの近未来小説「わたしを離さないで」は、そのような奇怪な世界を坦々とした静かな筆致で描いている秀作だ。精子提供、そしてさらに進む遺伝子工学の結果、まったく未聞の未来世界が出現するにちがいないのだ。ジョディ・フォスターという女優には、そうした世界のさきがけとなる素質が垣間みえる。それが本当の彼女の魅力ではないかと、私は秘かに思っているのだ。




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仮に「異邦人」としておく。あられもない空想から、科学的「真実」まで、詩、小説、歴史、哲学、政治、経済、趣味等、この世の人事、出来事、万般に、興味を寄せる者の総称とします。

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