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黄昏の旅路

 過日、2日続きで放送した映画を、妻と二人でテレビでみた。とてもいい映画だった。
映画の原題は、「Broken trail」とあった。さて、この千八百年代初頭(?)の西部アメリカを舞台に、カーボーイが数百頭という野生の馬を追って遙かな旅の途上を、様々なエピソードをまじえての映画なのだが、ロバート・デュバルが演ずる老カーボーイの哀愁を湛えた人間くさい主人公が、大変に印象に残った。
 開拓時代のアメリカの広い平原、砂埃にけむる岩山、荒々しい男や女たちの出遭いと別れ、静かに滔々と流れる川、夜の闇に燃える焚き火、粗末なコーヒーを啜る一寸の仕草、酒場に屯する人々の顔、気勢のあるふとっちょの女主人、ふてぶてしく生きていく娼婦たち、いかにも顔立ちの凄惨な悪漢や粗暴でどすのある保安官の表情、掠奪と強姦と殺し合い、こうした西部劇にかかせない人間ドラマが、なんとも魅力のある味と臭いを放って、悠然と流れていくのである。ここには悪のむごたらしさがあり、善のおだやかなやさしさが、大きな素朴なリズムにのって、ごく平凡な生活の底に流れていく。
 小難しい理屈はどこにもない。馬鹿もいるし利口もいる。愛欲も物欲もすべてが剥きだしの姿態で立ち現れる。そうしたもののすべてをまるごとに抱きしめたいほどの、人生と自然の織りなす風景があるだけだ。
 雨が降っていたら、「雨が降っている」と書けばいいと言った、ロシアの小説家アントン・チェーホフのことばを思いだすが、むかしもいまも変わらない人間の世界がある。もうそれだけで余計な形容などは必要としない、まるでゴッホの描いた部屋の椅子のような荒涼さなのだが、そこにアメリカの西部劇映画の伸びやかな温みが靄のようにかかっている。このアメリカの広大な風土から湧いてくる余裕のようなものは、時代を経るに従いその影を薄め、いつしかアメリカ標準で世界を制覇しようとする驕傲と性急さにとって代わるように、おもわれるのだが・・・。
 さて、映画の話しに戻ると、人身売買で連れてこられた中国女が五人、馬車に乗せられてやってくる。みな生娘ばかりで高い値段でアメリカまで強引に拉致されて来た女達だ。中には纏足の子供子供した女もいる。これらの「商品」を運ぶ商売男は、馬を追うカーボーイたちを酒に薬を入れて眠らせ、金品を盗んで逃走する。カーボーイたちが男を追いかけ捕まえ樹にぶらさげ、五人の中国女を救い出して馬車にのせて旅がつづく。とある町に着くと、そこの酒場のオカミが中国女たちが自分が依頼した「商品」なのだと知る。女主人は殺し屋を使ってその「商品」を取り返えそうとしての銃撃戦。「耳の大きな馬」とあだ名される殺し屋のモノにされ、酒場で商売女として働いていた白人女性をも連れだしてのカーボーイたちの馬追いの旅が、またあらたに始まるだけだ。
 中国の女達の一人は病気で、また一人は二度の強姦から精神を病み自ら疾駆する馬の群れに身を投げて死ぬ。老カーボーイがこの死者を埋葬するときに口にするのが、短いつぎの葬送の詩句である。

 我々はみな旅人だ/緑の草原から/暗い土のなかへ/生から死へ/永遠の一時を/旅している

 そして束の間の平和の時が流れる。焚き火が燃え夕陽が西の空を焦がす夕暮れの川の畔、人生の辛酸をなめた男と女の老カーボーイと白人女性がアコーディオンの伴奏で踊る。やがてこの年寄りにほのかな恋が芽生えはじめる・・・。
 カーボーイたちが馬を届けて手中にした金と白人女性を取り返えそうと、後をつけ狙ってきた殺し屋たちとの最後の死闘のすえに、生き残った老カーボーイからの白人女性が期待していたことばが吐かれることは、遂にないのである。 二人の間に時が流れる。やがて老カーボーイの元へ女性からの手紙が送られてくる。それを嬉しそうに受けとって読む。「あなたは幸せになるのが恐いのね・・・」。
 男は流れる夜の川の畔に立ち、パイプを吹かして星が明滅する広い空を、遙か彼方を眺めて、幸せな思いにひたる老いたるカーボーイの、よろめき歩く孤独な姿、どっかりと部屋の椅子に腰をおろす、その哀愁に漂う場面で映画はエンディングになるのだ。
 この映画の原題は「Broken trail」だが、私は「黄昏の旅路」としてみたい。なにかそうとうな意訳にも思えるのだが、全体の印象からはこれでいいのではないかと、おもわれてならないのだ・・・・。




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Author:masuryuu
仮に「異邦人」としておく。あられもない空想から、科学的「真実」まで、詩、小説、歴史、哲学、政治、経済、趣味等、この世の人事、出来事、万般に、興味を寄せる者の総称とします。

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