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戦場行政

  連日の猛暑のなか、テレビで例年になくさきの大戦の特集番組を多く見たような気がする。これだけ多くの第二次世界大戦の番組が放映される国というのは日本以外にはないのではないだろうか。ドイツやアメリカや英国はどうなのであろう。ふとそんなことを考えた。戦後70年の節目で、日本の安全保障が政府の主導で様々な論議を呼び起こし、戦後のいわゆる平和憲法が危殆に瀕していることから、マスメディアがさきの戦争から戦後の原点をみなおそうという動きがこの背景にあるのであろう。あたかも国論を二分するこの政治情勢には、隣国の中国の動きに相関する外交問題として、国民と為政者の大きな関心事であることは明らかであろう。
 内田樹という元学者が「街場」シリーズの本を精力的に世に出している。たまたま、「街場の中国論」を読んでいたら、こんな一節があった。中国の近代史において、中国が経験した戦争、侵略、植民地支配は数々あるのに、どうして中国は日本による侵略だけを思い出して、その歴史認識を問い、反省やお詫びを求めてくるのであろうか。英国とのアヘン戦争で蒙った中国の惨禍やドイツやロシアやフランス、アメリカによる植民地支配について、日本と同様に中国がその加害責任を批判し、謝罪を求めていないのはなぜなのか。これらの国の教科書に、どれだけ中国に加えた歴史事実の記述あるのか。このような素朴な疑問を投げ掛けて、内田先生は「そういう各国に対する中国人の国民感情についてのデータを僕は知りませんけれど、たぶんその国民感情と過去の歴史的事実とは決して相関していないじゃないかと僕は思います」と述べている。そして「『だから日本も侵略の事実を隠蔽してもいいんだ』と言っているわけではない」と、釘を刺すことは忘れてはいません。もちろんさらに、これは内田先生の論旨の一部分で全体の文脈は「中国の脱亜入欧-どうしてホワイトハウスは首相の靖国参拝を止めないのか?」であること、そして、この小論が2007年4月以前に書かれていることをお断りしておかなければならないだろう。
 さてこの問題はひとまず置いて、ここで冒頭のテレビ番組の話に戻らしていただくことにしよう。さきの大戦に焦点にした数ある放映番組のうち、私の虚を突いたものがあったので、それを取り上げたいのだ。それは沖縄が陥落する4ヶ月前に赴任命令をうけた県知事の島田叡(あきら)という人の話である。島田さんは東京帝大を出た内務省の高官であった。大半の内務官僚が米軍が沖縄に迫りだすと見るや、出張と称して内地へ逃げ帰る中で、彼は異動命令を決然と受けたのだ。そして、彼がしたことは現地の人々の命の安全を守る疎開等を遂行することにあった。軍人が民間人を盾にして玉砕を叫ぶときに、生き延びることを民間人に奨めて、沖縄が陥落するに至るや、島田氏は肝胆相照らす警察本部長と共に、海辺へ歩く姿を最後に二度とその姿を見せることがなかったのだ。遂に遺体はどこにも発見されないままであった。戦場にも行政があったことを、不覚にも私は忘れていた。「戦場行政」なる言葉をはじめて知ったのだ。彼は旧制三校で野球の選手として活躍した実績をもち、どうでもよいことだが「葉隠」と「南州翁遺訓」の愛読者であったそうである。多くの内務官僚が遁走するところ、多大な民間人の死者を出した沖縄に踏みとどまり、最後まで県知事の任務を敢然と遂行して、最後には命をみずから絶った役人がいたという事実に、私の胸は打たれたのだ。瞠目すべき一役人の毅然たる人間の姿勢に私は心から敬服をしたのであった。



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仮に「異邦人」としておく。あられもない空想から、科学的「真実」まで、詩、小説、歴史、哲学、政治、経済、趣味等、この世の人事、出来事、万般に、興味を寄せる者の総称とします。

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