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雅品の人

 青函トンネルの建設を題材にした映画「海峡」を夜分に観ていて、不意にあることに気づかされた。それは今年が結婚40周年にあたるということであり、同時にその式の媒酌人の奥様から「夫は一月に永眠しました」という喪中の便りを、先日に受け取ったことであった。
 昭和50年(1975)の11月末日に、明治記念館で式を挙げた。国鉄が一週間のストライキを打った年で、遠方からの出席予定者の中には、東京まで来られない者もいた雪の降る日であった。
 翌年の春だったか、私たちは荒川区に住む媒酌人の邸宅を訪問した。門構えの旧い屋敷の庭に蹲があり、その奥に赤い朱塗りのお稲荷さんをみかけた。その時まだ40になったばかりのその人とお綺麗な奥様とで、私たちは桜茶のこころ温まるおもてなしをうけたのである。
 都知事の秘書をしていたその人は、細やかな気遣いと穏やかな人柄で、姿は見るからにダンディーで奥様とは、媒酌人にはこれ以上の人はないという好一対の両人であった。結婚式の口上も、源氏物語からの雅なもので、多くの参会者の印象に残ったものと思われる。この人から私は、在職中、公私にわたりお世話になりながら、葬儀にも参列できず、喪中の便りで不帰の人となったことを知るとは、なんという不義理であろうかと、心はいたむばかりであった。
 今年の賀状は確か来ていた。お歳から気にはなっていたのだが、訃報の情報は誰からもなく、ほぼ一年のあいだ知らないでいたことに、なんという非礼をしたことかと悔やんだが、もう遅かった。多くの思い出もあったがもはやそれを語り合える人はいない。有楽町と新宿とでの、茫々50年の歳月であった。ご無礼をお赦しいただき、ご冥福を衷心よりお祈り申し上げるばかりである。

  すさみ世に 寂しやな

     雅なる人の逝きしか 悲しみは海の藻屑





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仮に「異邦人」としておく。あられもない空想から、科学的「真実」まで、詩、小説、歴史、哲学、政治、経済、趣味等、この世の人事、出来事、万般に、興味を寄せる者の総称とします。

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