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竹山道雄と昭和の時代(平川祐弘著)

 目の手術をしてから読書が一苦労となった。それなのになぜ530頁に及ぶ大著を読むに至ったのか、その次第から語らねばならでしょう。
 疎開先の静岡県掛川市で生まれた私は、5歳ほどまでの幼年期をこの地で過ごし、私を可愛がってくれた祖母がおりました。この祖母は同じ掛川市の倉見村の岡田家から出ております。またその岡田家の本家からは、二宮尊徳の高弟で大日本報徳社を創立し、日本で最初の信用金庫を設立した岡田良一郎がいました。こうした遠戚関係のことを母がときおり断片的に話してくれたことがあったのですが、むかしはあまり関心が湧きませんでした。92歳の母の没後、祖母がひそかに記したノートが一冊残り私の手元に渡ってきました。そこには祖母の一生が懺悔ふうに書かれていました。母から仄聞したことと祖母のノートから、岡田家への関心が起こり少しの調べものをしに私は生地を訪れたのです。岡田良一郎の子息二人がそれぞれ文部・宮内の大臣をしていたとは聞いていました。しかし、三男が竹山家の養子に入り、子息の竹山道雄氏が映画化もされた「ビルマの竪琴」の著者であることまでは知りませんでした。こんかい竹田道雄氏の伝記を書いた平川祐弘氏は私が若い頃に読んだ「神曲」の翻訳家であったことを、偶然に知り私は不思議な機縁を覚えたのです。かてて加えて、偶々、私は自分の家族を巡る小説(フィクション)を書き、祖母の遠縁である岡田家の一人(一木喜徳郎)にも登場してもらった関係から、この大著への興味をそそられたという訳であります。
 この書物は映画「ビルマの竪琴」の小説の著者であり、1960年代に「危険な思想家」と名指された幾人かの一人でもあった義父の竹山道雄という人の精神活動とその人物像の生涯の全貌を伝えんとして2013年に藤原書店から刊行されたものであります。市川崑監督による映画は1956年と85年に上映され、前作は小学校時代に、校庭で風に翻るスクリーンに死骸の山をみた記憶とミズシマという名前だけはおぼろげに覚えていおりました。85年の映画は約3億円というトップの興業収入をあげ、私はテレビで観たことがありました。なお原作を読んだのはつい最近のことであり、この児童小説の解説者が、批評家の中村光夫氏であったのは、あるところに発表した私の「戦後私論」の序論に、この中村光夫氏の「明治・大正・昭和」からの引用で書き始められていたことで、私の中に不思議なコレスポンデンス(照応関係)が生まれるのを覚えたところでした。
 さて前口上はこのぐらいにして、平川祐弘氏の浩瀚なる「竹山伝」についての案内と感想とを書かねばならない仕儀となりましたが、正直なところ、私は「危険な思想家」と指呼された当の竹山道雄氏の書物をこれまでに一冊も読んだことがありませんでした。平川氏訳のダンテの「神曲」を読んだ私の遠い記憶からすると、このような大部の書物を一気に読ませる流麗なる文章に氏の熱情と雄弁もまた力を貸していることは明瞭でありましょう。フランス、イタリア、ドイツに留学した平川氏の日本語の筆は私の知らない竹山道雄なる人物の教養と魅力を存分に語り、旧制一高の高雅にして広闊なる視野を蔵した和魂洋才の知識と教養は、豊潤で深い味わいを伝えて余りあるものでありました。私の兄がむかし一高の寮歌をよく口ずさんでいたことから、いつしか私もこの寮歌を覚えてしまたことは余談としても、私がこの書から一番に惹かれたのは「竹山道雄著作集」への大いなる関心でありました。特に第一巻は「昭和の精神史」「妄想とその犠牲」「ハイド氏の裁判」が収められ、解説が林健太郎氏であったこと、また著作集以外では、「歴史的意識について」「主役としての近代」への興味を強くいだかせられたのです。そして若干ではありますが、岡田家の人々への記述も散見され、文化人からみた岡田家の人々への印象も点綴されており、なかなか示唆に富むものでありました。とくに「二・二六事件に思う」の最晩年の感想は、現実に生きる岡田良平から触発されたもので、竹山道雄氏の誠が窺われて印象に残ったところでした。
 この大著いがいにも、平川氏は「和魂洋才の系譜」(上下)、「ラフカディオ・ハーン」の翻訳と研究、「アーサー・ウエイリー『源氏物語』の翻訳者」、それに「日本語で生きる幸福」「西洋人の神道観」「日本の正論」と、広範囲の研究と活動をしています。さらに、2017年10月「戦後の精神史」が刊行され、この中で加藤典洋への言及がありました。
 まずは、ご高齢の著者のご健康を衷心より願って筆を擱こうと思います。


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(注)本ブログは2020,8,20に書かれたものですが、祖母の事跡等調査の関係から、ここに再掲することにした。






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仮に「異邦人」としておく。あられもない空想から、科学的「真実」まで、詩、小説、歴史、哲学、政治、経済、趣味等、この世の人事、出来事、万般に、興味を寄せる者の総称とします。

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