11月25日
おそらくいま日本人高齢者の男性諸君の多くは、所謂「三島事件」と呼ばれる出来事の記憶の断片なりとをお持ちになっているかと思われます。1970年の11月25日の午前、作家の三島由紀夫が自ら作った民間防衛組織「盾の会」のメンバー四人と市ヶ谷の東部方面総監室に乱入し総監を縛り上げ、檄文を垂らしたバルコニーから演説した三島は、その直後に会員の森田必勝と割腹自殺を遂げるという衝撃的な事件が起きました。当日、証券会社でアルバイトをしていた私はこの第一報を、会社に入ってくるテロップ情報で知りました。その事件の以前より三島の死はその作品と行動からある程度予測されないことではなかったのですが、日本刀を持って自衛隊へ乱入という短いテロップを見た瞬間、私は自決へと至る事件の最終段階を直感いたしました。三島の文学の愛読者とはいえない者でありましたが、その思想と行動とには私の耳目を惹きつけずにはおれないものがあったのであります。思想とは、そして文学とは何かという根源的な問そのものの尖端で三島由紀夫は自爆し、彼の「死」はその意味の昏い口蓋を空けているかのごとく思われたのでした。
あれから50年を閲する年月を経た現在、日本と世界を廻る情況の変化に驚きながらも、その根本において変わらないものへと私の思考の水鉛は沈んでいくもののようであります。「花鏡」において、世阿弥は「命に終わりあり、能は果てなきものなり」と申しました。その果てなきものとは何か。その実像を手探りしつつ残りの月日を過ごしていきたいと思うばかりです。
あれから50年を閲する年月を経た現在、日本と世界を廻る情況の変化に驚きながらも、その根本において変わらないものへと私の思考の水鉛は沈んでいくもののようであります。「花鏡」において、世阿弥は「命に終わりあり、能は果てなきものなり」と申しました。その果てなきものとは何か。その実像を手探りしつつ残りの月日を過ごしていきたいと思うばかりです。
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