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断想妄語「長すぎた入院」

 NHKの番組をみた。「長すぎた入院」という精神病患者の不条理な入院生活である。30年、40年と入院をさせられる人間の条件を想像するとすこし身の毛がよだつ。本人が退院を希望しても、家族がそれを拒めばいつまでも、入院生活が続くらしい。二十歳で病院へ入り、出られたときは60歳になる。外の空気を吸いたくとも、そうした自由がない。奇妙で不気味な病院生活から解放された男が、懐かしい昔の町を歩く。「まるで浦島太郎になったみたいだ」と述懐していた。病院生活といえば体裁はいいが、実質的にはこれは家族による軟禁生活ではないか。患者に危険性が特にあるわけではない。NHKからこのドキュメンタリイーについて、特になにかの意見のようなものがあったわけではない。 日本は世界の中で精神科病院大国となっているらしい。その実態の一端を報道しただけでも良とすべきだろう。日本は世界の病床のおよそ2割が集中し、長期間 、精神科病院で過ごす人が少なくないらしいのである。長期の入院を強いる家族たちの事情も当然にあるだろう。こうしたことを考慮し、身をひいて淡々とした映像を流すだけで、わかる人間にはわかるからである。「国連やWHOなどからは『深刻な人権侵害』と勧告を受けてきたが、その内実はほとんど知られることはなかった。ところが、原発事故をきっかけにその 一端が見え始めてきた」とのコメントがあった。患者の病名として「統合失調症」というまるで符号のようなものがでていた。たしかこの病名は以前では「精神分裂病」だった。だいぶむかしに、旅先のある場所で偶然ラジオから「この精神の病気ほど人間的なものはない」と聞いて、いたく納得したことがあった。こう書いて突然ある一冊の本が浮かんだ。1966年に発刊された「精神分裂病の世界」(宮本忠雄著・紀伊國屋新書)であった。この本ほど若い時に、私を恐ろしいほどに深く震撼し、啓発してくれた書物はなかった。ゲーテをはじめ、ヘルダーリン、ゴッホ、ムンク、カフカ、リルケ、キルケゴール、サルトル等の現代の哲学と芸術の錚々たる人物がみなこの病と無縁ではなかったからである。日本の作家では、漱石や芥川や太宰も、たぶんこの範疇に入るのかも知れない。コリン・ウイルソンは「アウトサイダー」という一時世界中に知られた本を書いたが、この「アウトサイダー」を「病におかされていることを自覚しない文明にあって、自分が病人であることを知っているただひとりの人間」としている。そして、精神医学者であったカール・ヤスパースは「精神分裂病は現代になんらかの適応性があると考えることができるかもしれない」と、非常に示唆的なことを述べているのだ。
 日本の家族と精神医療制度について、難しいところだろうが、さらに問題をふかく掘り下げるべきだったのではないかと思われてならない。




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仮に「異邦人」としておく。あられもない空想から、科学的「真実」まで、詩、小説、歴史、哲学、政治、経済、趣味等、この世の人事、出来事、万般に、興味を寄せる者の総称とします。

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