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友への挽歌

 
 リベルテ
 最初で最後の君の作品
 夕空を描いたキャンバスをナイフで
 切り刻み呆然と夕陽をみつめる画家
 リベルテ おお 自由よ
 まるで君の六十九年と
 三百六十四日の人生

 家から追放された君は
 両親に見捨てられた孤児さながら
 両手を腰に下ろして決闘に向かう拳銃使
 君とみた映画「暴力脱獄」のポール・ニューマン
 
 炎熱の夏に生れ酷暑の夏に旅立った君
 家族の誰一人の哀悼もなく
 不思議なことだ 一人の女性を愛しただけなのに
 君の両親から大阪へ行って
 別れさせてくれまいかと頼まれたが
 君はすでにしっかりした女性と住み
 君の新しい生活ははじまっていた
 別れさせることは無理ですと
 両親へぼくは報告した

 家族の誰ひとり祝福しようとしない結婚
 写真だけの結婚式を君はした
 まるで「その男ゾルバ」さながら
 君はこの人生をあまりに愛したからだ

 叛徒ボールと労働の汗の滴
 跳ねて飛ぶような君の歩行
 厚い胸と爽快な笑い声 君の強健な肉体 不屈の意志
 君にとってこの世は軛でしかなかったのだろか
 おお リベルテ 放埒で深い君の愛情よ

 どんな落ち度があったわけでもないのに
 一本の線香も上げることが できない家族とはなんだろう
 両親の死亡の連絡もない家族とは
 めずらしく弱音を吐いて 君は
 つぎつぎと煙草に火をつけ 口に銜えていた
 まるでニコチンで自殺でもするように

 おれはとうとうガンマンになったよと
 見舞いに行った警察病院で
 笑いながら君はそう言った
 俺の娘は検察庁に入ったのだというと
 病院の連中は一目置くんだと
 めずらしく君は誇らしげだった

 君はカーク・ダグラスが好きであった
 なんだOK牧場じゃないかとぼくはそっと笑った
 その後あの決闘の具合はどうですか
 それがぼくからの最後の君へのメール
 返事は絶えて来なかった

 ある日帰宅すると妻が言った
  いまあなたが座っている隣に
  Yさんが座っていた笑いながら
  それを聞いてぼくは直感した
  あいつが永遠の放浪の旅に出たのだと
  まるでランボーの父親のように

  机上に細君の達筆な手紙が白く輝き
 四十九日の法要が済みお知らせ申し上げます  
  骨は家族みんなで八重山の海に散骨しました
 浜島という青い海うかぶ島の写真葉書を
  ぼくは貰った眼科へ入院する前日
  目が見えなくなるのは恐いね
  見えすぎるのもねと
  右に傾き飛び上がった力いっぱいのペンの癖字

 新宿の路上で突然投げられたハンドのボールを
 ぼくが受け止めると 君は驚いた顔で賛嘆した
 そのときボールはぼくの眼に
 止まって見えたんだとぼくは言いかねた
 君は路上のゴミ缶を蹴飛ばし それは
 消火栓をねじ切る愚行を繰り返す
 ポール・ニューマンをぼくに思い出させた

 深更の冬の酒場を出ると外は凍りつく闇だった
 君にはぐれたぼくはねぐらを探して
 朝起きるとそこはなんと
 ラブホテルのベッドの中 赤面して会計をした
 さっそく葉書魔の君はぼくに葉書をくれた
 散財させて済まなかったと

 横たわって全身のまわりを徳利で埋めるのが
 理想だと言った酒豪の君は
 酒場のママさんと一緒になって
 ぼくに酒の飲み方を教えてくれたっけ

 家族同士 中央沿線の公園で
 花見をしたことがあったけれど
 あれいらいお互いに忙しい人生の坂を
 息をつぎながら歩いているさなかで
 しばらく逢うことはなかった

 君は営業で歩きすぎて跛をひいていた
 まるで片足を失ったハラルのランボー
 そして血尿が止まらないと言っていたが どうして
 借金の蟻地獄の底を這いずりまわることになったのだろう
 五十数社の消費者金融からの督促で
 家族にも電話があるのだと洩らしたことがあった 
 細君からは離婚届けの印鑑を押してと
 催促があるんだと君は苦笑していたが
 なんでそんな借金をしなければいけないのだ
 と問うても納得できる返事はなかった

 ぼくはなんとなく女の匂いを感じた
 やはり好きなってしまった女と二人で住み
 女は身体が弱くてその最期を看とり荼毘に付した
 その死んだ女の位牌とともに暮らしていたと
 あるとき 君はポツリとぼくに言った
 仕事場で女は俺の戦士だったとも
 やはりそうだったのかとぼくは得心したけど

 君から貰った本は
 初めての「愛と死をみつめて」も トーマスマンの
 「魔の山」以外は あらかた捨ててしまった
 君と四国の大歩危小歩危に旅行して
 ぼくがあげたヴァレリーの本を君が
 瀬戸内海の天高く放り投げたようにだ

 浅草橋の駅前のカラオケ酒場で
 君は歌う詩人だった
 それほどに君の歌は上手かったのだ
 幼少の頃 君はピアノとお琴を習わせられていたと
 聞いたことがあった

 どこかで貰ったコンドーム一箱を
 君はぼくにくれたことがある
 その背中にぼくは言った 奥さんを大事しろと
 君がニタリと笑って困惑した顔が浮かぶ

 会社をやめた君の第二の人生は
 墓石のセールスマン 君の営業成績は毎月一番 
 会社はその君にもう一店舗の現場の拡大を命じた
 夏の太陽に灼かれながら君は売った墓場の草取りまでして
 君の手は傷だらけで 赤くむくれていた

 なんという破天荒な人生を
 君は飛び跳ねるように生きてしまったのだ
 最期に君が見捨てた家に帰り
 家族ごっこをして遊んでいたと
 細君から聞いたけれど
 君は太宰治のような人生を
 生きてしまったと言ったらしいが
 それはぼくには意外な言葉だった

 ぼくは君が散骨された沖縄へ行ってみたが
 そして君が好きな浜島の写真のような
 青い海を眺めてもみたが
 雨上がりの泥濘を歩いてみても
 散骨されてしまった君に逢うことは
 できはしなかったのだ
 そうして君を哀悼したつもりになったが
 ぼくは君を思い出すことがやめられない
 細君にはわるいけれども
 ぼくは君の人生に乾杯する
 それ以外に別れを告げることができないのだ

 せめて君の細君と三人の子供たちの
 元気な未来を祈って さようならを言おう
 こうして冗漫な詩を書きつらねても
 君の好きなロルカのような
 切り詰めた情熱の詩などは
 とても書くことはできなかったのだ。



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Author:masuryuu
仮に「異邦人」としておく。あられもない空想から、科学的「真実」まで、詩、小説、歴史、哲学、政治、経済、趣味等、この世の人事、出来事、万般に、興味を寄せる者の総称とします。

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