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町医者は偉大である

 
 前回のブログで触れた歌人・斎藤茂吉が住んだ三筋町には、私が定期的に通う町医者がおられる。私はどちらかというと人見知りをする人間ですが、この医者とはそれほど隔意なく話しが出来るのがふしぎなくらいである。この医者が出版した本を読んで感心したところなので、これを少しだけ紹介しておきたくなりました。いかにも関西からきた人らしい、くだけた話し好きな医者なのです。
 本の題名は「病は口ぐせで治る」(フォレスト出版社)です。一読すればこのお医者さんが学問と教養があって、多様な趣味を持ち好奇心の旺盛な人間であることが分ります。それだけではありません。まずこの本の「まえがき」を読むと、なんと冒頭から映画のタイトル名「フェイク」が飛び出し、私も若い頃にひとり言で愛用した「くそったれ!」という文句が連呼され、これが横文字つきなのであります。読者の興味を最初の一行から釣ることが物書きの常道ですが、いかにこれに長けているかがお分かりになるでしょう。これは待合室にいる患者が、このお医者さんが名前を呼ぶと同時に扉を開けて外へ出て来るなり、患者と同じ目線で丁重な挨拶をする態度に吃驚させられる姿勢に通じています。読者の心理を最初に読むと、なぜ病が「口グセ」で治るのか、それを単刀直入に言いたいのです。それから一瀉千里と読者(=患者?)に
「『病』はあなたの意識と行動と習慣の積み重ねです。」
「『病』は誰もが経験するひとつの状態にすぎません。」
「ひとたび『病名』が医師の診断のもとに与えられた瞬間に、その『病気』が誕生します。」
「はじめに言葉ありき」なのです。」
「『病』を治す、あるいは『病』を防ぐために、もっとも有効な方法が『口グセ』です。」
「口グセがあなたの「意識」「行動」「習慣」を変え、人生を変える!」
 と説きはじめるのです。余計なことですが、昔の映画評論家の淀川さんを思い出しませんか。テレビの前で大好きな映画についてのおしゃべりをするとき、淀川長治さんは私の孫が垂らすような嬉しそうな涎をたらしていました。
 話しをおおざっぱに申しますと、私の食道にできていたガンが発見された幸運をくれたのがこのお医者さんだと言っても過言ではありません。内視鏡検査の紹介状を書いてくれた医者がこの人だからです。実は私の脳下垂体(?)からは常時過剰な胃酸の分泌があり、そのために地獄から天国までのバライティーに富んだ夢を見ます。とたんにガスが発生し、連発のおならがでないかぎり、不愉快で寝ていられませんでした。私は半年以上前からその症状を訴えてこの病院へ通院していたのです。すこしは漢方の効果はありました。デバガメではありませんが、もうノゾキに入るしかないと、紹介状を貰い、胃の内視鏡を挿入したのです。このとき、検査医師がおかしな声を発したので、私は「ヤハリ」と思いました。ところがとんだおかどちがいでした。初期のガンが検査の管がいとも簡単に通過する食道で見つかったのです。早速、検査、入院、剔抉が行われ、バキュームカーのような蛇腹ではありませんが、太い管を喉にぶちこまれ、私の上品な口と顎はひょっとこのごとくねじ曲がり、この拷問のような苦しみに堪え忍び、翌朝の回診時「今日は私の誕生日ですので退院させてください」と、3日でガンの治療を済ませて帰宅したのです。このお医者さんへそれを報告しますと、「超ラッキーだったんや!」と紹介の労をとってくれたこの町医者は大喜びをしてくれました。たしかにグッドタイミングだったのです。幸運でした。それとも医者と患者との間にも「啐啄」(そったく)という生命現象が働くのでしょうか。「忖度」(そんたく)ではありません。まちがいないようにね。
 この本の話しに戻りましょう。肝心なのは本のなかみです。「口グセ」の言語(言葉)に「病」のαとωをを見る視線は、現代哲学の特徴的な傾向ですが、医療の現場を知悉してそこから生き生きとした具体的な事例を持ち出してくる真摯な姿勢に説得されないわけはありません。読者はこの本を読むだけで、自分の否定的で後ろ向きの生活習慣を反省し、この本から元気と勇気を貰うことになるでしょう。しっかりとした観察とそれを裏付ける知識は正確です。人生が習慣でできているというリアリズムの認識から食べなきゃ行けないという口グセを、そこそこ食べればいいというように認識を変えていく。メディアが流す心ない情報に注意すべきだとか、究極の無意識化が認知症であるなど、平凡な日常感覚を大事にして生きることを説くこの本は、ハッタリめいた意見はどこにもない。「俳優セラピー」の可能性には深い人間洞察さえ窺えるものです。病に対する究極の奥義を「真面目に過す」というにいたっては、襟をただされるばかりでありましょう。メトロノームに合わせるのではなく、むしろそれに併走する無意識の醸成こそに、病気知らずの人生の秘訣をみるのは、この医者が音楽をやり武道も嗜むことからきています。よい「口グセ」は習慣をつくり健康な人生をつくるのだとして提唱する「病を遠ざける9つの秘訣」までくると、ひょっとしてあなたはこの本を手放せなくなるかも知れません。
 私事が長すぎましたが、このお医者さんが「病人」を診る目には、人間とこの社会を見る科学者と芸術家のあくなき探究心が備わっていることは驚嘆すべきものがあるのです。そしてさいごに、結果がすべてであることが実務の医者の使命と責務であることを熟知していることもまた確かなことでしょう。また、病院は医者だけではない。周りにいるスタッフが皆、快い人ばかりだと申し添えさせていただきたいと思います。
 さて、ところが、このお医者さんが医者をやめることを聞いて、びっくりしてしまいました。同時に、やはりと思わずにはいられませんでした。なぜ「やはり」なのでしょうか。めずらしくこのお医者さんは、感染症系から町医者になっていました。そこに今回のコロナ禍です。街の総合病院がコロナの患者をだして右往左往していましたが、感染症系出身のこのお医者さんはメディアの取材を求められ、すぐれて先見的な意見を述べられていました。「やはり」との判断は、旧態依然の日本の組織のなかで、こうした人への風当たりは強かろうという私の想像からきていました。どこで生きていこうと、「大丈夫さ!」という声が私の耳に聞こえてきます。新たな活躍を期待しております。


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仮に「異邦人」としておく。あられもない空想から、科学的「真実」まで、詩、小説、歴史、哲学、政治、経済、趣味等、この世の人事、出来事、万般に、興味を寄せる者の総称とします。

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