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詩集「弧塔」「海の賦」「カモメ」から(2)

 逝く女

官能の森のなかで
囚われの女よ
悲しい君の自由は
愛よりも死を願った
君の鉱石の胸は
海を湛え
野性の自然は
君の鼻梁を貫いて天に接し
君の眼のなかには
恒に蒼穹があった
砂漠から来た
死の騎士だけが
君を認めると
君は歓んで
その甲冑の胸に身を任し
夕陽は哭くように森を焦がし
白鳥は天をついて昇っていった


 雨 情

小止みなく 雨はふるよ
   紫陽花のうえ はこべのうえ
小止みなく 雨はふるよ
   一人去り 二人去り 友よ
小止みなく 雨はふるよ
   酔いどれし 舗石のうえに
小止みなく 雨はふるよ
   やり場なき 怒りをおさえ
小止みなき 雨はふるよ
   さまよいし 歓楽の街
小止みなき 雨はふるよ
   腕をふり 涙をおさえ
小止みなく 雨はふるよ
   目をつぶり 心をとじて
小止みなく 雨はふるよ
   人々の悲しみのうえ


 黄昏の海

夕暮の海に吹きすぎていく風よ
女の臀のように 色褪せた海よ

かって俺の傷口に
塩辛い夢想を そそぎこんだおまえ

俺はおぼえている
瀕死の太陽を抱いて 蒼穹にのたうつおまえ

おお 静かな海よ

おまえはまだ覚えているか
まるで黒点だらけの太陽が
俺の肌を炙り
砂に溶けた俺の耳に囁いた
虚ろな愛を

また 燦爛たる夕暮
泣き濡れたおまえの項に聞こえた
歓びの鐘
おまえの淫らな曲線に沈む
満天の星屑
孤独なほど青い
おまえの祭壇へ
俺は口づけた

おまえの深い欲望の水底に
透明な亀裂をもとめ
昇天のように墜ちていく
俺の魂を
おまえの虚無の淵へ
浮ばせるため

おまえの近く あるいは遠く
海鳴りを聞き
俺は生きてきた
泡立つ静脈の黄昏
おお
老いたる海よ
おまえの灰色の瞳にあふれる
古い悲しみ

夜は来たのか
恩寵は去ったか

もはや
おまえは俺を見ない

俺が
おまえを見ないように


 ヴェネツィアのオンディーヌ

ヴェネツィアの水は 動かぬ空を喫み
黒い波は橋の下で 淫らな音を立てる

繻子のドレスを纏い
私を運ぶこの閑雅な舟に
おまえを乗せて しばし彷徨ってみようか
この入り組んだ迷路の中へ

そして象牙色したテラスに腰掛け
夕日を浴びて佇む石の貴婦人たちよ
その燃える闇の裳裾をひるがえして
真昼の輝ける海と空へと 漕ぎだそうか
教会の尖塔から いまひとつの星が瞬き墜ちた
秘めやかな私たちの婚姻の徴として・・・

ああ だがここでは 蒼ざめた私のオンディーヌよ
おまえはあまりに おとなしすぎるのだ





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masuryuu

Author:masuryuu
仮に「異邦人」としておく。あられもない空想から、科学的「真実」まで、詩、小説、歴史、哲学、政治、経済、趣味等、この世の人事、出来事、万般に、興味を寄せる者の総称とします。

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