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「薔薇色のゴリラ」塚本邦雄

 晴れた秋の午前、散歩にでた。片目がつぶれかけているので、家から外を歩いてみたくなったのである。失ったものを数えるな、残っているものをいかに使うかを考えよう、というパラ・オリンピックの精神というほどのことでもない。ただ美味しい珈琲を一杯飲みたかった。旧友とさいごに飲んだ大衆酒場のまえを通り、秋の陽だまりを散策したくなった。

「ヒトゲノムの解析でわかったことだが、人とウイルスの関係において、ゲノムの4割がウイルスから来ている。その機能は明瞭ではないが、はっきりした機能をもっているのはゲノムの2%にすぎない。ヒトゲノムのほとんどが、不要不急のジャンクDNAである」

「ヒトゲノムの40%がウイルス出身という話、私も不勉強で詳しく存じあげなかったのですが、興味深いです。
円環の遺伝子を持ち不変の道を選んだウイルスと、螺旋の遺伝子を持ち進化の道を選んだ菌類(我々生物の祖先)は、いわば宿命の敵同士であり、今回のコロナ禍でもそれは改めて浮き彫りとなりましたが、生物史においては良くも悪くも互いに影響を及ぼしあっているのかもしれないですね。」
 東大の医学部の先輩(養老先生)と、居合の稽古に来ていた若い後輩のお話しである。

珈琲の味は変わっていなかった。567禍で客足の少ないためか、中華蕎麦屋の味がすっかり変わってしまい、落胆したことがあったが、これは嬉しいことだった。早速、店の人に声をかけた。
「味が変わってないって」と奥さんが、カウンターの中へ言った。
「そうかい」と亭主の明るい声が聞こえた。

浅草橋の駅下の喫茶店をでて、懐かしい大衆酒場のまえを通った。
彼はガルシア・ロルカの詩が好きだった。
「スペイン語は天使のことばなんだ」と、いつかそういっていた。
一度、駅前の歌声酒場で一緒に飲んだ。その男は「歌う詩人」であった。朗朗と大きな声で楽しかったことだったろう。沖縄の海に家族の手で散骨された。輝かしい肉体はあっけなく消えた。爽快な男の笑いだけが聞こえてくる。

 その前に、まみという若い女性からつぎのような投稿がありました。
「面白いですね!ヒトゲノムがほぼ不要不急というのは興味深いです。つい先日ミスタービーン観ました。」
 たしかに、ヒトゲノムのほとんどが、不要不急というということが、どういうことで、また、どうしてなのか、つっこんで質問してみるべきでしたね。今度、養老先生か、その後輩にたしかめておきます。「ミスタービーン」なんて、まだやっているのか。驚いたなー。ともあれ、それまで、まみちゃん、待っていてください。すみません。

シャンソン歌手、グレコが死んだ。「薔薇色のゴリラ」という名作シャンソン百花譜と銘打たれた塚本邦雄の本を、むかし通ったフランス語教室で、一人の老嬢から貰ったのだが、河盛好蔵の「河岸の古本屋」という革張り装丁の本も戴いたのである。このことは昔のブログに書いたことがあった。さて、「薔薇色のゴリラ」のなかの「戦後五彩」に、ジョルジュ・ブラッサンス論からエディット・ピアフ、イブ・モンタン、レオ・フェレ論のなかにもちろん、ジュリエット・グレコ論がみえる。小さな字でびっしりとなにやら書いてある。「グレコ嫌いが聴いてもこの一曲には脱帽するだろ」という「日曜は嫌ひ」へ捧げた言葉のオマージュはただものではない。「愛し合う子ら」「美しい人生」「美しい星の下に」と、「馨る水銀」と題したグレコ論は贅を尽くした塚本ならではの讃美である。塚本の翻訳がないのが残念だが、歌詞をコピーしておきたい。

Je hais les dimanches
Tous les jours de la semaine
Sont vides et sonnent le creux
Bien pire que la semaine
Y a le dimanche prétentieux
Qui veut paraître rose
Et jouer les généreux
Le dimanche qui s'impose
Comme un jour bienheureux

Je hais les dimanches!
Je hais les dimanches!

週の平日は空っぽで
虚ろな音がする
それよりずっとひどいのは
押し付けがましい日曜日
いかにもバラ色って顔をして
気前の良さを演じてる
至福の日と思われている日曜日

私は日曜日が嫌い!
私は日曜日が嫌い!

Dans la rue y a la foule
Des millions de passants
Cette foule qui coule
D'un air indifférent
Cette foule qui marche
Comme à un enterrement
L'enterrement d'un dimanche
Qui est mort depuis longtemps.

Je hais les dimanches!
Je hais les dimanches!

通りには人の群れ
すごい数の通行人
無関心に
通り過ぎる人の群れ
まるでお葬式に行くように
歩いて行く人の群れ
とっくの昔に死んでしまった
日曜日のお葬式に

私は日曜日が嫌い!
私は日曜日が嫌い!

Tu travailles toute la semaine et le dimanche aussi
C'est peut-être pour ça que je suis de parti pris
Chéri, si simplement tu étais près de moi
Je serais prête à aimer tout ce que je n'aime pas

あなたは平日はもちろん、日曜日も働いている
私の考えが偏っているのも、多分そのせいね
ねえ、もしあなたが私の傍にいてくれさえすれば
嫌いなものだって好きになってあげるわ

Les dimanches de printemps
Tout flanqués de soleil
Qui effacent en brillant
Les soucis de la veille
Dimanche plein de ciel bleu
Et de rires d'enfants
De promenades d'amoureux
Aux timides serments

Et de fleurs aux branches
Et de fleurs aux branches

春の日の日曜日は
すっぽりお日様につつまれて
きらきら光って
昨日の憂いを消してくれる
青空にあふれた日曜日
子供たちの笑いにあふれた日曜日
おずおずと愛を誓う
恋人たちの散策にあふれた日曜日

木々の枝には花があふれる
木々の枝には花があふれる日曜日

Et parmi la cohue
Des gens, qui, sans se presser
Vont à travers les rues
Nous irions nous glisser
Tous deux, main dans la main
Sans chercher à savoir
Ce qu'il y aura demain
N'ayant pour tout espoir

Que d'autres dimanches
Que d'autres dimanches

そして雑踏の中
急ぎもせず
通りを横切る人々
私たち二人も手をつないで
その中に紛れ込んで行けるのに
明日のことなんか
気にもせず
希望と言えば

別の日曜日のことだけ
別の日曜日のことだけ

Et tous les honnêtes gens
Que l'on dit bien pensants
Et ceux qui ne le sont pas
Et qui veulent qu'on le croit
Et qui vont à l'église
Parce que c'est la coutume
Qui changent de chemises
Et mettent un beau costume

そして保守的だと言われている
律儀な人たち
そして本当は違うのに
そう思われたいと望んでいる人たち
習慣だからという理由で
教会に出かける人たち
シャツを着替えて
よそ行きを着込む人たち

Ceux qui dorment vingt heures
Car rien ne les en empêche
Ceux qui se lèvent de bonne heure
Pour aller à la pêche
Ceux pour qui c'est le jour
D'aller au cimetière
Et ceux qui font l'amour
Parce qu'ils n'ont rien à faire

邪魔されることも何もないので
20時間も眠っている人たち
早起きして
釣りに出かける人たち
日曜日はお墓参りに
出かける日と決めている人たち
それに、愛の行為に耽る人たち
他にすることが無いという理由で

Envieraient notre bonheur
Tout comme j'envie le leur
D'avoir des dimanches
De croire aux dimanches
D'aimer les dimanches
Quand je hais les dimanches...

そんな人たちは私たちの幸福を羨(うらや)むかも
ちょうど私が彼らの幸福を羨むように
日曜日があり
日曜日を信じ
日曜日を愛せるなんて羨ましい
だって私は日曜日が嫌いなの…

(ミスター・ビーン訳)



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ナナカマド
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面白いですね!ヒトゲノムがほぼ不要不急というのは興味深いです。
つい先日ミスタービーン観ました。
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Author:masuryuu
仮に「異邦人」としておく。あられもない空想から、科学的「真実」まで、詩、小説、歴史、哲学、政治、経済、趣味等、この世の人事、出来事、万般に、興味を寄せる者の総称とします。

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