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花の宴

 部屋の片付けをしていると、思いがけないものが出てくる。
「花おりおり」となかなかに流麗な筆づかいで題名が綴られ、鮮やかなカラーの花の写真のしたに、12行と12字からなる文章が認めてられている小さな切り抜きがたくさん見つかった。
 これが35年まえ、2005年の新聞の一角を飾っていたことがあったのだ。それを切り抜いて集めていたことをすっかり忘れていたとはなんということであろうか。
 たとえば、ヤマブキとあり、「時代と共に花への想いも変わる。ヤマブキは恋の花だった。『万葉集』にはいとしい人の面影に重ね、庭に植える歌も。首都東京は、この花と縁が深い。武将太田道灌はにわかに雨に蓑を農家に請い、娘がさしだした八重の花の意味がわからず、恥じて学問に目ざめ、大成、江戸城の前身を築いた。」とある。
 文は、湯浅浩史。写真は、矢野勇。

 かつて太田道灌の銅像は都庁が有楽町にあったころには、第一庁舎の正面右側に立っていた。都庁の新宿移転にともない、いまは国際フェオーラムのガラス棟にあるらしいが、それを知る者は少ない。
 
 太田道灌は室町時代の武将で江戸の土地を切りひらいた。銅像の制作は開都五百年記念として1956年に、多くの銅像を手がけた写実派の彫刻家朝倉文夫氏である。上野の西鄕隆盛の像と比べるのも一興だろうが、太田道灌も見限られたものである。
 「花おりおり」は今では本になっているが、新聞の切り抜きがあればじゅうぶんであろう。一枚一枚の写真を見て文を読めばまた過ぎし昔を思いだすこともあろう。

 さて、話しはは平安時代に飛ぶ。紫式部が書いた源氏物語に「花の宴」という章があった。54帖の物語りのなかでは、この「花の宴」は源氏の君の放恣なふるまいが目立つところで、何処かフランスのボードレールの詩、たとえば、「路上で会った女に」を連想させないではおかない性的放縦がみられる。といっても源氏の君のほうは幾つかの優雅な歌で宴の場面を艶やかな風情で織り上げている。下はボードレールの詩の数行。
                                                                                 稲光り・・・・・それから夜。その眼差が忽然と                                                    
俺を蘇らせたまま、須臾の間に消え去つた美を。                                                  来世出なければ もう二度とお前に遭へないのだろうか。                                                             
「悪の華」鈴木信太郎譯
                                                                                  こちらは禁中をさまよい、あちらはパリの街中をさまよう遊蕩児である。源氏のほうには八つの歌が散らばり、それぞれが艶めいた風情をかもして優雅である。

  大方に花の姿を見ましかば
      露も心の置かれましやは

  深き夜の哀れを知るも入る月の
      おぼろげならぬ契とぞおもふ

  うき身世にやがて消えなば尋ねても
      草の原をば問はじとやおもふ

  心いる方ならませば弓張りの
      つきなき空に迷はましやは

 事実、源氏の朗読に耳を傾け、「花の宴」にはいると、ふと空が開けて春風に吹かれる心地がするから妙である。そう思いながら、たまたま、三島氏の「古典文学読本」を読みだしていると、氏は源氏の中でこの「花の宴」と「胡蝶」のふたつに独特な視線を放っているのであった。

「人があまり喜ばず、又、敬重もしない二つの巻、『花の宴』と『胡蝶』が、私の心にうかんだ。二十歳の源氏の社交生活の絶頂『花の宴』と三十六歳のこの世の栄華の絶頂の好き心を描いた「胡蝶」とである。この二つの巻には、深い苦悩も悲痛な心情もないけれども、あくまで表面的な、浮薄でさえあるこの二つの物語りは、十六年を隔てて相映じて、源氏の生涯におけるもっとも悩みのない快楽をそれぞれ語っている。源氏物語に於て、おそらく有名な「もののあはれ」の片鱗もない快楽が、花やかに、さかりの花のようにしんしんとして咲き誇っているのはこの二つの巻である。」

 この文章は「日本文学小史」の最終章となった「源氏物語」からの引用であるが、昭和45年6月で未完となった評論作品である。私は当時この一文を読んでいたはずだがまったく忘れていた。





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仮に「異邦人」としておく。あられもない空想から、科学的「真実」まで、詩、小説、歴史、哲学、政治、経済、趣味等、この世の人事、出来事、万般に、興味を寄せる者の総称とします。

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