FC2ブログ

スペイン、ギター二曲

 ジョナサン・スウィフトだと思うが、朝、主人が自分の靴が磨かれていないので、どうしてなのかと召使いに尋ねたところ、磨いてもすぐにまた汚れしまうからですとの返事が帰ってきた。その晩、例の召使いが主人のところへきて言った。自分の食事がないのですがと、主人に訴えた。そこで、主人は言った。食べてもまたすぐにお腹は空いてしまうじゃないか。
 こんなブラックユーモアを思いだしたのは、長年の友人からめずらしく手紙があり、その中に同じような歯医者でのブラックなジョークが書いてあったからである。
 それはともかく、友人がギターをまた弾きだしたとあることから、もう50年ほどむかし、この友人のギターを中野だったかの下宿の一室で聞いたことがあった。
 それで早速、土曜にラジオで録音した「名曲スケッチ」を聞きなおしてみた。
カレガ作曲「アルハンブラ宮殿の思い出」とグラナードス作曲「アンダルーサ」、ギター演奏は福田信一の二曲である。
 私は思わず落涙した。歳月は人を待たずということが身に染みたというより、音楽の美しさにこころをうたれたのだ。
ギターの音楽はトレモロの燦めきが絶え間なく流れ、私の胸にスペインのこの有名な宮殿を訪問したときの情景がよみがえった。ツアーに同行したこともあり、正直いってこの観光地になんの感興も湧きだすことはなかった。私はパック旅行から逃げ出して、ひとりになりたかった。
 「ドンキホーテ」の村で買ったワインは美味しいものであった。小さな玩具のような「ドンキホーテラマンチャ」の彫像の土産は、いまも家の洗面所の棚の真ん中に立っている。フラメンコなどは新宿で妻と観た踊りが一番で、当地での記憶はないも同然のありさま。ただ友人とみたフラメンコ映画は覚えている。たしか、1980年代のカルロス・サウラ監督の「血の婚礼」か、「カルメン」のどちらかであったろう。一時、私はフラメンコに熱中していた。映画もずいぶん観た。カルロスのVHS「フラメンコ」を買った。それは素晴らしいものだったが、テープに黴が生えて再生が出来なくなったのが口惜しいかぎりだ。
 スペインへ行ったがあまりいい思い出がない。あの巨大な建築物の「サクラダファミリア」は工事中でその現場をただ歩いただけ。
 街中で革製のバックを妻の土産にと探して求めた、苛立たしいほどに扁平な時間だけが、スペインでの苦々しい思い出なのである。帰りの飛行機の中で、したたかに酔った薄汚れた若者をみたが、一目みて私は嫉ましかった。あの若者はスペインを全身で体験したのに相違なかったからだ。






関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

masuryuu

Author:masuryuu
仮に「異邦人」としておく。あられもない空想から、科学的「真実」まで、詩、小説、歴史、哲学、政治、経済、趣味等、この世の人事、出来事、万般に、興味を寄せる者の総称とします。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード